司法書士の平均年収はどのくらい?業務内容と報酬、年収アップのコツを解説
2024.10.07 資格に関するコラムPR
法律系の資格や業務には、高収入というイメージがあると思います。分かりやすいのが弁護士で、年収1,000万円を超える業種として良く名前が挙げられます。そんな弁護士と似たようなイメージを持たれやすいのが『司法書士』です。司法と付いているため、年収も高そうに感じます。
この記事は、そんな司法書士の平均年収について詳しく解説していきます。結論から言うと、司法書士の平均年収はそこまで高くありません。しかし、業務内容によっては高収入を狙えることもあり、そういった部分もピックアップして解説していますので、ぜひ参考にしてみてください
目次
司法書士とは
司法書士とは、簡単に説明すると「登記業務」に特化した法律のスペシャリストです。登記とは、会社を設立した際に土地や不動産の情報・所有者の情報を法務局に登録する手続きのことです。そうすることで、安全かつ公正な取引を行えるようになるのです。
登記は確実な情報とミスのない書式が必要になりますので、司法書士に依頼することでそういった問題を解決することができます。最近では高齢化社会の影響で登記業務よりも「成年後見人」や「相続業務」を中心に行っているケースも増えています。
司法書士になるには試験に合格する必要がありますが、受験資格自体はないため誰でも受けられるのが特徴です。ただし、例年の合格率は4~5%と非常に低く、真剣に合格を目指すなら3000時間以上の勉強が必要になる難関資格でもあります。
参考:司法書士試験の難易度は?弁護士・行政書士との比較や独学の注意点
- 司法書士法に基づいて認定される国家資格
- 会社設立時の「登記業務」がメインとなる
- 近年では「成年後見人」や「相続業務」も増えている
- 受験資格はないが難易度は高め
司法書士の業務内容と報酬
まずは、司法書士の業務内容と、報酬額の相場について簡単に解説していきます。
不動産登記業務
司法書士で最もポピュラーな業務が不動産登記業務です。不動産登記とは、簡単に言うと「土地や建物の情報を開示できるようにし、売り買いをスムーズかつ安全に行うためにすること」です。情報とは不動産の面積や種類だけでなく、その不動産を所有している方のデータも登記することになります。
司法書士が昔から担当している業務であり、登記が義務付けられているからこそ依頼されることが多い業務です。実際、司法書士事務所の多くが不動産登記法業務をメインに行っています。複数の登記を行うことで報酬は加算されていき、1案件あたり100,000円を超すこともあります。
- 抵当権抹消登記:1案件あたり15,000円~
- 所有権移転登記:1案件当たり50,000円~
- 抵当権設定登記:1案件あたり40,000円~
商業登記業務・会社設立
上記の不動産登記業務と同じくらい昔から行われている業務が、商業登記業務です。新しく起業して会社を設立する場合、必ず「設立登記」を呼ばれる手続きをしなくてはいけません。設立登記を行うことで、以下のような情報を相手方が知れるようになるのです。
- 会社の商号
- 本店
- 発行済みの株式総数
- 資本金
- 役員情報
など…
大きな取引を安全に行うには、こういった情報をお互いに理解しておく必要があります。登記を行わないと、「会社としての信頼性や透明性が確認できない」となり、取引困難な状態になってしまうでしょう。そうした状態を解決するのも、司法書士の大切な業務の一つです。
- 会社設立登記:1案件あたり100,000円
- 役員変更登記:1案件あたり30,000円
遺言・相続業務
相続問題は多くの家庭で起こり得る可能性があり、時には大きなトラブルに発展することもあります。司法書士は、こういった相続に関する手続きを代行する業務も請け負います。書類作成はもちろんのこと、相続に関する相談・アドバイス業務がメインです。
相続関連であれば、遺産をどのように分配するかの話し合いを取り仕切り、「遺産分割協議書」の作成を行うこともあります。もし遺産に借金が含まれている場合、それを法規することも可能です。その際に裁判所へ提出する「相続放棄申述書」の代行業務などもあります。
相続前で取り扱う業務としては、遺産の相続人同士が争わないように「遺言書」の作成にも携わることもあります。法的に有効となる遺言書を作成するために、司法書士と一緒に作成することが増えているなど需要も高めです。
- 相続放棄の申述申立て:1案件当たり50,000円
- 遺言書検認の申立て:1案件当たり:30,000円
簡易裁判所での訴訟代理業務
訴額140万円以下の時間を扱う「簡易裁判所」において、訴訟代理人として訴訟を担当することもあります。簡易裁判所が扱う事件としては、「建物明渡請求」や「貸金返還請求」などです。あまりイメージしにくいと思いますが、簡単に言うと過払い金の返金請求のことです。
最近では広告やCMなどでも積極的にアピールしていますよね。グレーゾーン金利が問題になっているからこそ、司法書士法人も過払い金返還請求訴訟を積極的に行いたいのです。過払い金バブルと呼ばれるほど需要がある分野ですので、今後も活躍できる場面は多いでしょう。
- 着手金:30,000~100,000円
- 裁判終了後:成功報酬として10~20%
成年後見業務
近年、司法書士が取り扱う業務として中核になりつつあるのが「成年後見業務」です。障がいを持っている方、認知症を患っている方、判断能力に不安がある方などの財産管理を行うのが主な業務内容となります。では、少し例を見てみましょう。
【例】
障がいを持っている子どもがいる家庭があったとします。親御さんが高齢だった場合、「自分たちがいなくなった後に誰が面倒を見てくれるのか?ちゃんと生活できるのか?」という不安が残ってしまうでしょう。いわゆる「親亡き後問題」と呼ばれるものです。
このような場合に、成年後見制度を利用するケースが多いです。残された子の契約関連や財政管理を代行し、安心して生活できるように支援していきます。成年後見人になること自体に特別な資格は必要ありません。しかし、専門的知識を持っている司法書士や弁護士などに依頼するのが安全度が高いのです。
- 成年後見人の選任申立て:55,000円
供託業務
供託業務とは、金銭・有価証券などを国家機関である供託所(法務局)に預けることで、支払うべき相手に分配を行う法務処理のことを指します。裁判所の勧告や、事業家からの養成によって活用されることが多く、目的によって以下の種類に分類することができます。
- 弁済供託
- 担保保証供託
- 執行供託
- 保管供託
- 没取供託
どの供託においても司法書士は代行・供託物の還付・取り戻し手続きを行えますが、メインになるのは「弁済供託」「担保保証供託」「執行供託」です。それぞれ解説すると長くなるため割愛しますが、司法書士だからこそ依頼されることの多い業務となっています。
企業法務
企業法務とは、企業内で起こった法的トラブルを解決するための部署のようなものです。企業内で司法書士を雇うケースもあれば、法律事務所・司法書士事務所に依頼するケースもあります。中小企業が各事務所への外注、大手企業は法務部を設置して雇用する傾向にありますね。
・対処法務
企業経営で発生した法的トラブルを解決・処理する業務になります。本来は弁護士が担当すべき業務なのですが、認定司法書士になれば「訴額140万円以下の訴訟」に関して担当することが可能です。
・予防法務
企業経営において法的トラブルが起こらないように予防する業務です。コンプライアンス厳守の厳格化や、コーポレートガバナンスが企業に求められるなど予防策が重要視されています。司法書士の専門知識を、ここで活かすことができるのです。
・戦略法務
企業経営において重要な決定に参加したり、企業の意思決定の場に参加するなど、いわゆるコンサルティング業務のようなものです。近年ではM&Aや事業継承などにも力を入れており、法的問題や登記のことに関して任されることも多いです。
年収:450~800万円(企業に就職するケースが多いため年収で支払われる)
司法書士の平均年収
司法書士の業務内容が分かったところで、実際に年収はいくら貰えるのか見ていきましょう。法律に関わる業務だから年収も高いと予想されますが、実際のところはどうなのでしょうか。今回は日本司法書士会連合会が発行している『司法書士白書 2021年版』を参考に調べてみました。
勤務司法書士の場合
司法書士白書2021年度版によると、勤務司法書士の収入で最も多かったのが「300~400万円未満」で、全体の21.0%を占めていました。次いで「400~500万円未満」が18.3%、「500~600万円未満」が15.1%という結果です。全体の54.3%が300~600万円未満ですので、平均年収は400万円前後だと予想されます。
年収1,000万円以上の割合は2.9%しかなく、選ばれた方のみ高収入に期待できるようです。因みに、令和2年度に実施された「民間給与実態統計調査結果」では、給与所得者の平均年収が433万円だったと公表しています。つまり、一般的なサラリーマンと平均年収はそこまで変わらないということです。
他の士業と比較すると、例えば税理士や公認会計士の平均年収は658万円でした。司法書士とは200万円以上の差があります。税理士も公認会計士も3000時間以上の勉強時間が必要な難関資格ですが、同じくらい難しい司法書士とここまで年収に差があるのは驚きです。
独立・開業した司法書士の場合
司法書士白書2021年度版によると、独立開業した司法書士の平均年収で最も多かったのが「1,000~4,999万円」でした。全体の30.8%を占めていますので、約1/3の方が年収1,000万円以上ということが分かります。勤務司法書士と比較して大幅な差がありますね。
2番目に多かったのが「200~499万円」で、全体の11.8%を占めていました。ここから考えられることは、「独立開業はハイリスクハイリターン」だということです。1,000万円以上稼げる方も多いですが、開業したばかりで顧客が少ないなどの理由から、勤務司法書士以下になる方もいます。
ただ、5,000万円以上の年収を得ている方もいるなど、収入にこだわるなら独立開業を目指した方が良いと言えるでしょう。これであれば、「司法書士試験の難易度の高さに収入が見合ってない…」という印象もかなり薄くなると思います。
司法書士の年収をアップさせるためには
基本的に年収が低い司法書士ですが、年収アップを狙うことはできます。ここからは、年収アップのコツについて解説していきましょう。
単価の高い業務を取り扱う
まずは、単価の高い業務をメインに取り扱ってみましょう。司法書士のメイン業務は「不動産登記」や「商業登記」です。これらの登記業務は「事務代行」の一種という感じで、手順や流れさえ覚えてしまえば専門知識を活かせるような場面はありません。つまり、報酬単価も低くなるため年収が上がりくい業務です。
もちろん、数をこなせばそれだけ報酬は貰えますが、中小企業の減少によって登記業務自体の需要が縮小傾向にあります。インターネットが普及したこともあり、登記申請書類の作成法やひな形を気軽に閲覧できるような環境です。これでは司法書士に依頼することも減るでしょう。
- 相続業務
- 成年後見人業務
上記2つの業務は、専門知識やスキルが求められる内容となっています。その分だけ単価は高めに設定されていますし、少子高齢化の影響で需要も拡大しています。最初は登記業務を任されることが多いと思いますが、経験を積んだら相続業務などに挑戦してみるのもおすすめです。
認定司法書士になる
認定司法書士とは、指定された研修・試験を受けることで認定される「より専門的な司法書士」のことです。認定司法書士になることで、通常の司法書士では取り扱えないような案件でも行うことができるようになります。専門性が広がり、幅広い活躍に期待できるのです。
業務上で最も大きな違いが、「簡裁訴訟代理関係業務」に携われるかどうかです。裁判の訴訟代理人になるという業務のため、通常の司法書士では受け付けることができません。書類作成や出頭して議論するなど、イメージとしては簡単な弁護士のような感じですね。
このように、専門的な内容を業務に活かせるため報酬は高めに設定されています。相場は、着手するだけで30,000~100,000円、そして成功報酬として10~20%ほどが受取れることが多いです。1案件あたりの報酬単価は30万円ほどになりますので、複数回依頼されれば年収も一気にアップするでしょう。
独立・開業する
独立・開業することで、将来的に年収1,000万円を超える可能性が出てきます。まずは司法書士事務所などで経験を積み、余裕ができてから検討してみると良いでしょう。開業して数年は実績もなく顧客も少ないため年収も少ないですが、地道に営業していけば信頼性は徐々に上がっていきます。
開業する場合、「都市部にするのか、地方にするのか」で年収に大きな差が出てくる可能性があります。
・都市部を選ぶ場合
人口が多いため、顧客も多く依頼数が伸びやすいのが特徴です。しかし、司法書士事務所・司法書士の数も多いため、どうしても競争率が激しくなってしまいます。実績のある事務所に近くに開業しても、なかなか新規顧客が来ることがないためハイリスクハイリターンです。
都市部で顧客を集めるためには、「競合他社では取り扱いが少ない専門分野を持ち、差別化を図る」ということが重要になります。勤務司法書士として働きながら、特定分野に特化した案件を担当できるように交渉してみるのもおすすめです。
・地方を選ぶ場合
司法書士事務所・司法書士の数が少ないため競争率はそこまで高くありません。しかし、顧客の数の少ないため依頼が少ないケースもあります。しっかりと営業をこなし、人脈を広げていくような努力が必要です。地域密着型としてコツコツ働きたい人は、地方を選ぶと良いでしょう。
ダブルライセンスを取得し、業務の幅を広げる
司法書士と他の資格を取得するダブルライセンスを活用すれば、それだけ多くの報酬を得ることができます。例えば、行政書士とのダブルライセンスの活かし方を見ていきましょう。
会社を設立するのに必要な定款の作成などの書類作成業務は、行政書士に依頼されることが多いです。しかし、その後に必要となる登記業務は司法書士でしか扱えません。つまり、行政書士と司法書士のダブルライセンスがあれば、会社設立まで完結することができるのです。
そうすれば報酬も書類作成分が上乗せされますし、実際に行政書士と司法書士のダブルライセンスで業務に当たっている方は多くいます。それに加えて、行政書士試験の内容は司法書士試験の内容と重複しています。簡単な資格ではありませんが、通常の勉強時間よりも短縮することはできるでしょう。
実力主義業界だということを意識する
ここまで年収アップの方法について解説していきましたが、一つ心得として覚えておいて欲しいことがあります。それが、「司法書士は年功序列ではなく、実力主義業界である」ということです。つまり、長いこと勤務していれば昇給していくような給与体系ではありません。
「安定性を求めて司法書士になったけど、何年勤続しても給与自体は全然変わらない…」という口コミもあるくらい、実力が報酬に直結する業界なのです。そのため、給与や報酬の良い他事務所に移籍したり、独立・開業を目指す司法書士が多くいます。
案件を担当すればするほど報酬は上がっていくため平等と言えば平等なのですが、入社してから数年は厳しい給与水準が続くことを覚悟しなくてはいけません。だからこそ、自分の営業スキルを磨いて案件に取り付けるよう努力する必要があるでしょう。
司法書士になるまでの流れ
最後に、司法書士になるまでの流れを簡単に解説していきます。司法書士は、試験に合格するだけでは名乗れない資格なのです。
①:司法書士試験に合格する
まずは、司法書士試験に合格することから始まります。司法書士試験には受験資格が必要ないので、受験しようと思えば気軽に受けることが可能です。試験自体は年に1回ですが、受験回数の縛りもないため5年以上かけて合格を目指す方もいます。
司法書士試験概要
試験日 | 筆記試験:例年7月の第1日曜日 口述試験:例年10月下旬 |
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受験資格 | とくになし(年齢・学歴・国籍・性別問わず受験可能) |
試験科目 | 不動産登記法・民法・商法・刑法・憲法・会社法・商業登記法 民事訴訟法・民事執行法・民事保全法・司法書士法・供託法 |
試験形式 | 筆記試験:択一式 |
合格発表 | 筆記試験:例年10月初旬 口述試験:例年11月初旬 |
受験料 | 8,000円(収入印紙にて納付) |
最初に筆記試験が実施され、それに合格することで口述試験へと進むことになります。筆記試験の合格発表から最終合格発表まで1ヶ月ほどとなっており、口述試験の合格率は高いため合格の鍵を握るのは筆記試験です。試験科目も多いので、効率良く勉強していく必要がありますね。
②:新人研修を受ける
司法書士試験に合格できたら、司法書士法にて定められている「新人研修」を受講する必要があります。研修自体は、日本司法書士連合会が主催しているものと、各都道府県の司法書士会が主催しているものがあります。自分の都合の良い方を選ぶと良いでしょう。
ただ、新人研修はすぐに受講しなくても大丈夫です。仕事の都合で受けられない、金銭的な余裕がないなどの理由で、合格した次年度に受講する人もいます。研修内容は「中央研修」「ブロック研修」「司法書士会研修」があり、認定司法書士を目指す方は特別研修を受講して試験に合格しなくてはいけません。
③:司法書士会に登録し、研修を受ける
司法書士として働くためには、「司法書士会・司法書士連合会に登録」しないといけません。例え試験に合格したとしても、新人研修を受けたとしても、司法書士を名乗って仕事をするには登録が必要不可欠です。逆に言えば、司法書士として働かないと決めている場合は登録する必要はありません。
登録は自由ですし、何年も登録していないからといって資格が剥奪されることもありません。登録には入会費や定期的に会費が発生するため、合格しても登録していない人も多いです。合格後のプランを明確にしておくことで、登録すべきかを判断するようにしましょう。